ヨルダンにおける難民を含む青少年の精神健康と社会統合に関する研究

ヨルダンにおける難民を含む青少年の精神健康と社会統合に関する研究

難民数は増加の一途を辿っており、全世界で1億2000万人に達しています。
難民問題の根本的な解決は、平和的な自主帰還ですが、出身地の安定化に長い年月を要することも少なくありません。
そこで、ホスト国社会と難民コミュニティーの社会的統合が次善の解決策となります。
難民の社会統合は、法的な身分の保証や言語と文化の相互理解を基盤に、雇用、住居、教育、健康の安定化と社会的なつながり(Social connection)の確立が鍵です。研究代表者らは、特に青少年の精神健康と社会統合の関連に注目し、2023年からヨルダンで質的量的調査を実施してきました。


そこで、以下にこれまでの研究の成果をご紹介します。

ヨルダンの青少年の精神健康に関する先行研究

研究プロジェクトをはじめる上で、ヨルダンの子どもたちのこころの健康がどのような状況なのかを把握する必要があります。どのような分野でも全く何も調べられていないということはまれで、先行研究が存在することが多いです。そこで私たちは、このテーマに関するスコーピングレビューを実施しました1)

図1.レビューの結果のまとめ

2016-2022年までの文献を検討した結果、うつ病、不安症、PTSD(特に難民)などの問題がヨルダンの子どもたちに広く見られていることがわかりました。また、家族の厳し躾や家庭内の問題が子どもたちの情緒や行動面の問題とも関連していました。さらに、コロナのパンデミック後に子どもたちの精神健康が悪化している懸念も浮かびました。

ヨルダンの青少年のための精神保健システム

上述した様々な精神保健上の問題に対してどのようなサポートが提供されているのか把握するために質的な現地調査を実施しました。具体的には、ヘルスケアセンターや学校を訪問して、子どもたちに直接かかわる機会のある支援者(医師、看護師、心理士、校長、教員、スクールカウンセラーなど)に個別もしくはグループでインタビューを行い、そのデータを分析しました2)。分析の結果は以下の図にまとめました。

図2.ヨルダンの青少年の精神保健支援システム

ヨルダンでは、ヘルスケアセンターに精神保健の専門家が常駐していることは稀ですが、WHOが開発したmhGAP(プライマリーケア従事者のための基本的な精神保健介入モジュール)のトレーニングが実施されていて、基本的な精神保健サービスが提供されていることがわかりました。また、うつ病、不安症などの問題が深刻であれば、専門医療機関への紹介もなされていました。しかし、mhGAPトレーニングには子どもの精神保健にかかる内容が十分含まれていないことや専門医療機関でも児童精神医学を専門とする人材がほとんどいないことが明らかになりました。また、公立学校は、子どもたちが過密な状態で、学習環境に制限があり、教職員の人材も不足していました。そのため、子どもたちのストレスは大きく、その手当も十分できていないようでした。ヘルスケアセンターと学校の連携に関しても精神保健面に関しては不十分であることがわかりました。

コロナパンデミック後のヨルダンの青少年の精神健康の現状

これまでのヨルダンで実施された青少年の精神健康に関する先行研究は、対象者に偏りがあったり、評価尺度の判断基準が統一されていなかったり、と限界点を抱えていました。その結果、例えばうつ病の有病率が9.3-73.8%と非常に大きくばらつくなど精度に問題がありました。そこで、ヨルダン科学技術大学との共同で、ヨルダン全国の8-18歳の青少年8000人を層別ランダムサンプリングした大規模な疫学調査を2023年に実施しました3)


図3.ヨルダンの全国規模の青少年精神保健調査の結果:うつ病と不安症

全国調査の結果、コロナのパンデミックが概ね収束した2023年時点で、青少年の4-5人に1人がうつ病や不安症のハイリスクで群であることが明らかになりました。また、ヨルダン人青少年に比べて、シリア難民やパレスチナ難民の青少年は精神健康状態がより深刻であることも明らかになりました。

図4.国籍別のうつ病と不安症の有病率

このような分析結果を受けて、現在私たちは特に難民の青少年が抱える精神保健の問題に注目しながら、彼らの社会統合と精神健康度の関連に関する更なる分析と、介入政策案の立案を行っています。

1)Tanaka E, et al. Mental health and psychosocial situation of children and adolescents in Jordan before and after the COVID-19 pandemic: A scoping review. preprint. https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2555822/v1

2)田中英三郎.海外便り シリア難民を含む青少年を対象としたJICA精神保健プロジェクトの立ち上げ―ヨルダン保健省での経験より.トラウマティック・ストレス Vol.22 No.2 2024

3)Khader Y, Abu Khudair S, Tanaka E, et al. Psychosocial, emotional and behavioral problems, quality of life, and mental health care seeking behaviors among children and adolescents in Jordan: a national school-based survey
Front Public Health. 2024 Nov 12;12:1409158. doi: 10.3389/fpubh.2024.1409158. eCollection 2024.